ドキュメンタリー最高賞受賞!仕事嫌いな若手ディレクターを支えた「元作り手」エージェントの影の奮闘
2014年10月、テレビ朝日系列24社の番組審議委員会が "番組制作における最高の賞" とする『第20回 PROGRESS賞』の受賞作品が発表されました。
20年目の節目の年を飾る大きな受賞会場の中央には、最優秀賞に輝いた46分のドキュメンタリー作品「知る重み ~出生前診断 家族の葛藤~」を創りだしたクリーク·アンド·リバー社の若手女性ディレクターの姿。
彼女の作品が評価され、この日を迎えるまでに一体どんなドラマがあったのか。決してドキュメンタリーにはならないけど「人を育てる」ことに全力をかけたエージェント 西田 向一郎(にしだ こういちろう)さんに、お話を聞きました。
新卒入社の「辞めたいAD」が、
ディレクターとして花開くまで
全くの新人からわずか数年で「番組制作の最高賞」とも呼ばれるPROGRESS賞を受賞した若手気鋭ディレクター...と聞くと、なんだかものすごいエリートをイメージしてしまいますが、実際はそんなことはなかったそう。
「どちらかと言えば諦めやすい弱気な女性だった」と当時を思い出す西田さん。
もちろんそこは同じ会社に所属する先輩と後輩であり、エージェントとクリエイターという間柄。
当然、「へーそーなんだー」と放置するわけにいかないのは当たり前として、西田さんはここで「こいつはヤル気がないからダメだな」とは考えなかったと続けます。
西田 彼女が番組作りに熱意を持っていることは知っていましたし、学生時代からの積み重ねで医療分野に対する特化した視点の鋭さも知っていました。
だからどれだけ弱音を吐いてもそれは本心というより「やりたいことができていない事に対する愚痴」みたいなモノと捉えていましたね。
なによりクリエイターにとって「いいものを作る」以外の雑多な部分を引き受けてアタマに余裕を作ってあげることが自分の仕事だと信じていましたから。
実際、その後報道部配属となり、番組の制作に携わることができるようになってからの彼女の成長の凄まじさは冒頭の通り。
報道番組の特集を皮切りに、反響の大きかった特集映像に追加取材分を加えてテレメンタリーの30分枠へ。そして60分枠のスペシャル番組としてオンエアされて、あっという間に『第20回 PROGRESS賞』の受賞まで。
実に、この間わずか1年足らずの出来事だったんだそう。
クリエイターを「お膳立て」しなければ
エージェントなんていらない
西田 彼女の実力が認められて番組の規模が大きくなれば、当然現場はますます多忙を極めていきます。
そうなると彼女が新人だった頃から貫いていた「制作以外の雑多なことは全部任せろ!」も、中々大変になっていくんですね。当たり前ですが。
経費管理や契約、局との調整、人員手配もろもろ...。ただ、なんていうか無茶苦茶忙しいんですが、そういうのすごく楽しいんですよ。ものすごく大変ですけど(苦笑)
そう笑顔で語る西田さん。実は彼自身もかつては作り手を目指し、そして挫折した経験を持っていたりするんだとか。
学生時代に映画制作に興味を持って、友人と一緒に自主制作映画を作っていたけど上手く行かず...と。
しかし、そうであるならば尚更、エージェントとして「クリエイターの抱えるクリエイティブ領域以外の雑多なことを全部やる」なんて日陰な仕事よりも、より華々しい舞台に立つクリエイター側にこそ楽しさを感じそうな気がするんですが...?
なんでまた「陰から支える側」になろうと思ったんでしょう?
そのまま質問してみると、ちょっと格好良すぎる答えがかえってきました。
西田 僕自身、かつて自主映画制作をやっていたころに「コーディネートする人」の存在の重要性にイヤってほど気付かされたクチなんですよ。
カメラマンが現場に来ないー!とか、役者がいきなりいなくなるー...とかね(苦笑)
だからですかね?かつての自分自身を救うような気持ちなんです。
自分が調整役に回って「作りたいものを作れる」という、クリエイターを増やす。それができたら、きっとその先に生まれる作品は自分の作品を作るのと同じくらい楽しいはずだ。
そんな感じなんです(笑)
ただ人を派遣して、クレームを受けたら人を取り替えて、スタッフからの文句はサポート担当にサッと流してとにかく求人を取ってくる...。
そんな、良くある「あんまりよろしくないイメージ」を人材エージェントに対して持っている方がいたら、聞かせてあげたいほどの名言ですね。
あらゆるモノづくりに共通する「作る人だけでは何も進められない」というお約束を、あえて裏側から全力で障害を排除することでなんとかしていく。
考えただけでも面倒なそんな仕事も、「一緒に作品を創りだしているんだ」と考えれば苦でもない。...てことなんでしょうね。
熱意があれば年齢も実績も関係ない。
だからこそクリーク·アンド·リバー社は強い
西田 クリーク·アンド·リバー社という会社はハタから見ると結構な大きな会社かもしれません。
でも、中身は本当にベンチャー企業みたいな風土なんですよね。やりたいと手を挙げさえすれば若手だろうとなんだろうと関係なくきいてくれる。挑戦させてくれる。
僕自身も若いころに挑戦と挫折を経験させてもらい、その経験があったからこそ今があるんだと思っています。
西田 入社3年目で東京へ異動を希望して、叶えてもらって、でも挫折して(苦笑)
それでもその時の経験を活かして業界を俯瞰的に見られるようになったからこそ「派遣して終わらない、陰と日向で一緒に走って行くスタイル」を見つけることができたんだと今は思っているんですよ。
と、そう少し照れながら締めくくってくれた西田さん。
モノづくりを仕事にしたい!と主張する人は多くとも、西田さんのように「クリエイターの横を一緒に走る影」の姿に興味を持つ人はまだまだ少ないのが現状です。
けれどそれはつまり、「作りたいけれど作れない」という境遇にある優れたクリエイターが数限りなく存在する。ということの裏返しなのかも知れません。
もしもこの記事を読んで『作る環境をつくる』ことに興味を持った方がいれば、ぜひクリーク·アンド·リバー社の説明会へ。
きっと、一人では味わえなかった感動と可能性に出会える...かも知れないですよ?
西田 彼女は、映像専門職としてウチに入社し、僕が担当エージェントになりました。まず現場で経験を積むためにADとして朝日放送に出向するところからキャリアをスタートしたんですが...
まぁ、お察しの通りTV業界の裏側ってすごくハードなんですよね。
案の定というか何というか、最初の頃は本当にしょっちゅう「もう嫌だ」「こんな仕事辞めたい」みたいな話を聞きましたよ(苦笑